白衣の裾を整えながら、さやかは静かな研究室の奥にある冷却棚を開けた。ガラス瓶に収められた薄紅色の液体が、かすかに光を反射している。「これが最新の試作品……」そうつぶやいて、そっとスポイトで少量を取り、目の前の湯気立つハーブティーにひと滴だけ垂らした。
「理論上は、ごく穏やかな心理的変化を促すだけのはず……」自分自身に言い聞かせるように、さやかはカップを両手で包む。香りは、ふんわりと甘く、ラベンダーとローズマリーが微かに混ざったような優しいものだった。一口、また一口とゆっくり飲み進めるうちに、体の内側からやんわりと温かさが広がってくるのを感じた。
「なんだか、少し……気持ちがやわらぐかも」表情がゆるみ、頬にうっすら紅が差す。緊張や警戒が解け、まるで午後の日差しの中にいるような、心地よい開放感が訪れていた。あくまで作用は穏やかで、感情がほんの少しだけ柔らかくなる。開発は、どうやら一歩前進のようだ。
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